鴛鴦呼蝉庵日乗
  2002.06.18 京都のこと
 以下は、ある通信に掲載したものです。
 季節が心持ち早いという風の便りを聞いて、京都に足を運んだのはもう何年も前のことであろうか。嵐山の渡月橋を越え、人混みをかき分け、土手沿いの静かな道で振り仰げば、こぼるるばかりの空一面の桜花。ため息とは辛いときばかりに出るのではないなと、思わぬ出会いにしばし流れゆく時に身を任せていた。その午後、二条城の石垣に沿い、歴史の重さを色に語る黒光りの門を抜けたとき、果たしてそこに春爛漫の枝垂れ桜。京都の美とは、わずか一週間ばかりの、この一瞬の中にあったのだ。四季の彩りに言葉を失うと、華やかさとは別の世界を求めたくなる。京都とはそういう場所である。京都の美を堪能した今、思いはまだ見ぬ春霞の吉野千本桜にある。心構えができたら、再び京都を訪れ、奈良、明日香、吉野と足を伸ばしてみたいと思う。

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