「視点」「観点」を増やす指導
−「象を冷蔵庫に入れる方法」の実践報告−


1999.3
黒川 孝広

一、発想力には「帰納」と「演繹」で指導する

 生徒にどのように表現力をつけさせるかという議論がここ数年盛んになってきた。表現力が不足しているのは授業の形態が画一的な知識伝達型授業に終始してしまうことと、生徒に表現の機会を十分に与えていないことに起因する。その結果、授業でもより多くの表現活動を実施させるために二〇〇二年からの高等学校学習指導要領では、「国語表現T」が必修科目になる見込みである。もちろん、知識伝達自体が悪いことではなく、知識伝達も必要である。だが、過度に知識伝達に陥り、「話す」「書く」表現の機会を生徒から奪ってしまうことに問題がある。生徒にもっと多くの表現する機会と、より楽しく、効果的な表現をする指導法の確立(この場合探求とも言い換えてよい)が必要なのである。
 生徒はおもしろい話などを好む。自分で空想して楽しんだりする。また、クイズやパズル、ゲームにはとても興味を示す。この興味をもっと授業で活かすことはできないかと、私は日々考えてきた。ちょっとした工夫でいろいろな考え方ができたりする。その考え方をどのようにすれば、授業で活かすことができるのか。そして、その考え方はどのような考え方なのかを認識することができるのか。よく「考え方やものの見方をつる」などという言葉が教育雑誌に使われる。しかし、生徒から見れば、どうすればこの「考え方」や「見方」が身につくのかわからない。そのためには指導をきわめて典型的なシンプルな形とし、なおかつ生徒に興味の湧く内容にしていくことで対処することができるという気はしていたのだが、どのようにすればいいのか、思いつかなかった。
 そこで、以前自分がしてきた知識伝達式授業の問題点は何かを分析したところ、ほとんどが自分の解釈の一方的な伝達であり、生徒には一問一答式の答えしかさせていなかった。生徒が私の期待していた解釈と異なると、誘導尋問的に質問を繰り返していた。私自身、中学・高校での授業に辟易していたのは、この質問の形式化と教師の一方的な解釈の押しつけであり、そして解釈できない人間に対するいかにも押しつけがましい解釈理論の陳述であった。
 そこで、今までの一問一答式の「クイズ」的授業から、様々な考え方(途中での思考過程)を導き出せる「パズル」的授業に転換することが必要だと考えた。「パズル」的授業は様々な答えを導くだけが目的ではない。様々な答えを分類することで、考え方を整理し、思考の方法を理解するのである。これは「帰納」と「演繹」の作業である。「帰納」という創造力、発想力を活かしながら、分類するという「演繹」によって、思考について考察できるようにすることを目的とした。

二、「創造力」「発想力」が求められている社会的状況

 誤った機会均等意識から同質意識が高まり、学校内での授業の平等性を求める傾向がある。シラバスに縛られるなど、ますます授業が画一化・固定化していき、教師は独自の授業を展開できなくなる。そうなると、発想力や創造力の育成は期待できない。発想力や創造力は生徒の資質・状況、教える教師の資質、学級をとりまく社会状況の三要素が影響して育成されるの。この要素は常に変化するものであるから、同質の授業があらゆる所で展開できるわけではない。過去の優れた実践記録を再現しようとしても、その通りにうまくいかないことがある。それは、三要素が原因なのであり、授業はこの要素によって常に変えていく必要がある。
 社会的要素は、現在の若者に発想力や創造力が不足していることである。知識重視の指導が、若者たちから発想力や創造力を失われているとの指摘がされてから久しくない。一九九四年に実施された日本経済新聞社大阪本社広告局の調査によると、企業の多くが若者に求めるのは、
文系:A理解力(16.1%)、E創造力(8.6%)、G発想力(4.1%)、J表現力(1.9%)
理系:@創造力(23.4%)、A理解力(18.8%)、B発想力(12.7%)、J表現力(1.0%)
であるという。(○は順位)
 また、一九九六年に実施された経済団体連合会の調査によれば、企業が文系学生を採用する場合に「創造性」を重視しているとの回答は八四.三%(理系学生は七一.五%)になるという。これらの状況は家庭や学校、企業での教育が起因している。その分析はまた別稿として示したいが、発想力や創造力が不足していることは、「視点」や「観点」が狭いことが原因と考えられる。これが社会的な要素である。
 次に、生徒の要素であるが、勤務校は受験校であるがゆえに受験問題解法を意識して、生徒はとにかく点数の良い小論文を書きたいという意識がある。しかし、何度か話しているうちに、それは建前であり、本音はもっと別な表現を求めていた。「小論文」という受験科目に対応したいという思いだけでなく、言いたいことが思うように表現できないことから脱却したいという思いであった。そのためには、まず様々な考え方を理解する力が必要である。これが生徒の要素である。
 そして、教師の要素であるが、私は最近、理解が表現につながる、表現が理解を支える、そのような関係が表現にはあると思っている。表現することで自分の表現を理解する。そして次のその表現をよりよいものにしようとする。しかし、自分の表現を理解できないと良い表現にしていけない。自分の表現を理解するとは、「読む」という行為にほかならない。よって、表現力をつるには理解力を育成する必要があるのである。基本的な作業である「読み」を深めていくこととは、事実を正しく認識し、そこに自分なりの価値をつることである。事実を正しく認識することは普段の読解の授業でも十分に対応できる。教科書の教材文を読むことでも、十分に「視点」や「観点」は育成できる。作者の「視点」や「観点」はどうであるかを分析することである。しかし、教科書教材にたいする生徒の先入観と教材という完成されたものを分析することなので、「視点」や「観点」の違いを知ることはできても、それを自分の問題として身近に感じることはなかなかできない。そこで、自分なりの価値をつること、つまり「視点」や「観点」をどのように持つのかということを、発想を分類することで実施するは、別の教材で基本的に行うことが望ましいと考えた。自分の問題として受け取るためには、自分のあるいは友だちの「視点」や「観点」を扱うことが効果的である。ここに一対一の指導から一対多、多対多の指導へと変えていくことが必要となる理由がある。このように考えているのが教師の要素である。

三、「象を冷蔵庫に入れる方法」の概要

 今回実践した授業は、「視点」や「観点」の違いを認識することを目的とした。対象は高校二年生の四月で、「国語表現」のいくつかの導入教材の一つとして二時間で扱った。表現指導の基本的な要素である「何を」という問題意識喚起の指導と、「どう」という表現方法の指導とあるうちの、「何を」にこだわることにした。
 教材は「象を冷蔵庫に入れる方法」である。これは一昔前にテレビや雑誌ではやったクイズである。テレビや雑誌などでは「象を冷蔵庫に入れる三つの方法」となっており、その解答は
@冷蔵庫の扉を開ける。
A象を冷蔵庫に入れる。
B冷蔵庫の扉を閉める。
というものであった。このことは、象と冷蔵庫との関係をとりはらって、「入れる」という言葉の意味に限定して考えたものである。これは、あくまでもクイズであり、答えは一つであって、別解はなかった。授業でこの答えを導くには、先に述べた画一的な知識伝達となってしまう。そこで、一つの知識に決着する「クイズ的」授業から思考の過程を重視する「パズル的」授業へと変換する必要がある。そのため課題を
「象を冷蔵庫に入れる方法」
とした。
 第一時に配布したプリントはB五版の大きさで、見出しの課題の左に大きく書く欄を設けておいた。見出しは「速攻発想訓練 大胆な発想力」と付けて、課題は「短時間で集中して大胆な答えを出す。右脳のパワーと左脳の制御。できるだけ多く考える。」とした。生徒の多く発想して欲しいという願いと、今回の授業が発想力の伸長につながることを強調するためである。
 このような授業は今まで生徒は経験してこなかったと思われるので、混乱をさけるためにも、学習の目的をきちんと説明した。それは、「思考力を育成するには『視点』や『観点』を理解することである。いろいろな考え方があることを理解することで、いろいろな考えをすることができる。」という主旨であった。
 時間配分として第一時は自分一人で考える時間と、友だちとで考える時間とを配分することにした。これは、個の思考の時間を確保し、なおかつコミュニケーションをすることで多くの考えを知る時間を確保するためである。その後で友だちの答えをヒントに新たに考える時間を設けた。これで二五分ほどである。残りは別の指導があったので、第一時はこの課題プリントを提出させ終わった。
 第二時には、前回提出したプリントのうち、二〇名ほどを印刷して配布し、新たに次のプリントを使用した。配布したプリントは前回と同じくB五版の紙で見出しを「発想の分類 象を冷蔵庫に 」とし、課題を「象を冷蔵庫に入れる方法を分類してみる。」とした。配布したプリントのすべての項目ではなく、重複する部分は除いて、分類させた。これにより、前時での授業の「視点」や「観点」がどのようであったかを理解するのである。これは、これは個人で作業し、また友だちとも話し合わせて、確認させた。これは四〇分ほどかかった。
 以上が授業展開の概要である。

四、とまどいながらの発想

 生徒は今までこのような作業を国語の授業ではしたことがなかったようなので、とまどいを見せていた。果たして思った通りに生徒が発想力を呼び起こすことができるのは不安であった。授業の主旨を説明した後からざわついていた教室も、次第に静かになった。考え始めたのである。その時にA子が質問した。
「先生、空想でもいいですか」
A子は現実的な答えを考えていたのであろう。そして、それが行き詰まった時、あるいは突然にひらめいたのか、空想的な答えを考えた。そして、それがこの課題の答えに適しているか判断しかねたのである。私は現実的でも非現実でもよいと考えていた。生徒の方から非現実の考えを出してきた。非現実でも現実になることは科学の発達から明らかである。どんな答えであっても、どのように考えたかを後に検証することで授業は成立すると考えたからである。
「もちろんいいよ」
と答えた。教室がまたざわついた。空想で答えていいとは気がつかなかったようである。それは、今までの授業が空想で答えてはいけないという固定観念が生徒を支配していたからであろう。あるいは、私の課題への指示が不徹底だからとも言える。
 A子の発言から教室はざわつき、そしてまた静かになった。だが、今度は教室に書いていく音が響きわたったのである。教室内を見回る時にA子の紙を見ると、「とにかくでかい冷蔵庫を作る」の次に「象をスモールライトで小さくする」が書いてあった。スモールライトは藤子・F・不二雄と藤子不二雄(A)の原作である「ドラえもん」で、ドラえもんが使う道具である。高校二年生でもドラえもんは人気があった。まず、A子は冷蔵庫をどうにかしようとした。そして、冷蔵庫を大きくしたなら、象を小さくできるのではないかと考えた。大きな冷蔵庫を作ることはできても、小さい象は思いつかない。そこでなんでもできるドラえもんの道具を使うという発想をしたのであった。それが「先生、空想でもいいですか」の発言となったのである。この発言を理解し、影響された生徒はどんどん発想したのである。
 五分ほどした後に友だちとプリントを回し読みすることにした。友だちと話し合いながらいろいろな発想をするためである。あちこちで笑い声や驚嘆の声が上がった。思いも寄らなかった発想に出会ったのであり、それは「視点」や「観点」への理解の始まりであった。自分では気がつかなかった発想に出会う、ここに多対多の授業の良さがある。このコミュニケーションの時間をもっと多く取りたかったのだが、このままでは読むという楽しみに終始してしまう。そこで、再び五分ほど個人作業の時間とした。その時、友だちの答えをそのまま写すのではないかと危惧した。そこで、
「友だちの答えの良かったものはそのまま写すのではなく、自分なりにいろいろ変えたり、つけ加えたりして考えて下さい」
と言った。友だちの発想の形を取りながら、どのようにその発想を演繹的にあてはめることができるか、不安であった。そこで、意識的にコピーするだけでなく、自分なりに考え直すよう促したかったのである。友だちの発想の仕方、つまり「視点」や「観点」を実際に具体的に使うことができればよいと考えた。この時間は五分ほどとった。この間は教室に書く音がより響きわたった。生徒は友だちの答えと同じような発想もあれば、それをふまえて大胆な発想もあった。そして、授業開始から二十五分がたち、プリントを回収して授業を終了した。どの生徒ももう少し時間が欲しいと言っていたが、やむなく、回収した。
 A子のプリントは次の通りであった。
・とにかくでかい冷蔵庫を作る。
・象をスモールライトで小さくする。
・象を燃やして灰を入れる。
・ぬいぐるみなどの象で代用する。
・象を切って一部分だけ入れる。
・象のいる動物園を冷蔵庫と改名する。
・りんごなどを象と命名して入れる。
・「象さん」の歌を冷蔵庫の中に向かって歌い、局が終わったらドアを閉める。
・象の鳴き声の入ったテープを冷蔵庫の中で再生してみる。それで中に入れた気分な ってみる。
・象の写真、またはあだ名が「象」という人の写真を中に入れる。
A子が友だちとプリントを交換したのは「象のいる動物園を冷蔵庫と改名する」の前であった。回し読みの時間にA子が読んだ友だちの中にB子のプリントがあった。そのB子のプリントには、三番目から、
・冷蔵庫という名前のおりをつくって入れる。
・缶ジュースに象という名付けて入れる。
と書いてあった。A子はこのB子の名付けの発想を受け入れたのである。B子は象や冷蔵庫を実物とするのではなく、名付けを考えた。象や冷蔵庫の形の想像から別な物へと見立てるという発想がここに見られる。このB子はその後に続けて、
・ねんどで象を作って冷蔵庫に入れる。
・象と書いた紙を冷蔵庫に入れる。
と象を違う物で名付けをしたり、見立てることをしていた。これもA子に影響を与えた。しかし、A子とは離れた所にいたC子の場合は違った。授業が終わった時のC子のプリントは、
・象の大きさの冷蔵庫を作る。
・象を殺して切り裂く。
・象にダイエットしてもらう。
・象の中身をなくして、皮だけにする。
・小さい象を作る。
・象の丸焼きみたいなのを作って、ハムにする。
・象を切って、つぶして、象のたたきみたいなのを作る。
・サーカス団を呼んで、箱のトリックみたいなものをやってもらう。
とあり、あくまでも象は動物の象そのものであった。
 このような授業では生徒の発想に期待するあまりに、生徒の発想が指導する側の予想を満たさないと、思いどおりにならない。A子が名付けについて知ったのは、偶然B子が発想したからである。もし、友だちが書かなかったらA子は発想できなかった。C子がそうであった。C子にも様々な発想を求めるのであれば、B子の発想を全員の前で発表するなりの方法が必要である。ここに、この実践の問題点がある。生徒の発想のみでは授業が進展しない場合もあるのである。それは、私の考える様々な発想をすることに誘導していることに過ぎない。私の資質の問題であった。

五、発想を分類する

 楽しい授業は、楽しさは覚えているが、どのような力が身についたかは覚えていないものである。前時の授業でも楽しさはあるが、まだ「視点」や「観点」についての指導は不十分であった。そこで、第二時は前時に提出させたプリントのうち、二十名ほどの答えを印刷して配布した。これにより前時の授業がどのようなものであったのかを認識することができ、自分のした作業の意味を知ることになる。
 分類する課題プリントと前回の生徒の課題を印刷したプリントを配布する。日頃、おしゃべりの多い教室も友だちが書いた文章を読む時は水を打ったように静かになる。生徒は学級の友だちがどのようなことを考えているのかを知りたいのである。そして、自分との差を求めて、自分の位置を知るのである。私は生徒の書いたものをよくプリントにして配布するが、そのたびごとに喜怒哀楽の表情が伺える。レポートにしろ、感想文にしろ、できるだけ多く生徒に読む機会、それは印刷して配布したり、回し読みをしたりすること機会を増やしている。これにより学級という意識が育つからである。学級という意識が育つと表現する生徒は、気を楽にして表現できる。表現には、表現する人の特性、内容、受け手と表現する人との関係が影響する。その受け手と表現する人との関係をよくするためである。
 一通り読んだ後に、一〇分ほどしてD子に分類の結果を発表させた。D子は、三つに分類した。
「象」 動物の象、物体に「象」と名付ける、動物の象の鳴き声 など
「冷蔵庫」 象サイズの冷蔵庫、ゴム製の冷蔵庫、オリを冷蔵庫と名付ける など
「入れる方法」 冷蔵庫を逆さまにして入れる、象に手を加える など
この分類は、素材と入れる方法に分け、素材を象と冷蔵庫に分けたのであった。私が予想していたのと同じ答えであった。象をどうにか加工することと、冷蔵庫を加工すること、そして入れる方法とこの三つに大きく分類できた。この分類と違う分類に出会ったのがA子のであった。何人か発表させた後、A子は最初はD子と同じく三分類であったの次のように直した。
○体型変化型
象・冷蔵庫の大きさを変える。冷蔵庫の素材を変える。象を部分的に使ったり、原形のない残酷なものも多い。
○代用型
・「象」・「冷蔵庫」という名前や文字を使って、他の物体に置き換える。象のぬいぐるみなどがこれ。
○仮定型
・実際は入っていない。想像してみたり手品だったり声だけだったり物体は入らない。「れいぞうこ」もこれ(?)
○教育・心理作戦型
・しつけ・説得・脅迫やえさでつったりする方法。
○その他
・どこにも分類できないものはここ。
A子は大きさ、名付け(見立て)、想像、入れ方の四つの観点から分類したのであった。「代用型」と「仮定型」は同じ分類にもできるのだが、代用は実際に冷蔵庫に入れるが、仮定は冷蔵庫には何も入れない。ここでA子は「代用型」と「仮定別」の分類をしたのである。この分類の中でA子は「れいぞうこ」の扱いに困った。「れいぞうこ」の中には「象」が含まれているので、入れなくても自然に冷蔵庫に「象」が入っているという答えである。これは、見立てというよりも、言葉の問題であり、それをどう取り扱うが不明だったのである。実際に入っていないことを「仮定型」とするのであれば、この分類は正しいのである。しかし、そこにA子は気がつかなかった。自分の分類をもういちど正しく理解することができなかったのである。このことは、表現学習にも関わる問題である。小論文や作文を書き、それを自分で読み直す時、どこがどう表現が拙いのがわからないことがある。それは、自分の表現を客観的に理解することができなかったのである。同じく、自分の答えを自分でもういちど検討することは、「視点」や「観点」を増やすことになる。
 A子の分類を私が全員に紹介したところ、それまで書いていなかったF子が書き始めた。F子が提出したプリントは、F子の几帳面な性格もあるのか、分類も細かくしている。「魔法に頼る」
「冷蔵庫をどうにかする場合」
「象をどうにかする場合」
 @科学的に変化させる
 A直接手を加える
 B心理的に誘導する
「言葉の神秘で」
「最終手段」(人事を尽くして奇跡を待つ。)
友だちの分類がF子の分類に影響したと考えられる。
 この実践は生徒にとってはとまどいもあるが、おもしろいものとなり、私の目標も達成されたかに思えた。しかし、生徒の元々持っている能力に依存している点で、生徒間での差を逆に認識し、劣等感を持つことも否定できない。今回の授業ではそのような生徒は見受けられなかったが、他の学級ではどうか不明である。

六、実践の問題点

 この実践後、多くの問題点が出てきた。順不同で気付いた点を列挙する。
@分類した時に、その分類の基準について自分あるいは他人が考察していくことをしていない点。
A分類をした後に、別の課題で発想力や創造力を活かす練習を含めて計画していない点。B教材の奇抜さやおもしろさに依存してしまい、本来なら教科書教材などで実践すべきであった点。
C母集団の発想力や創造力に依存してしまい、集団の特性が異なる時に指導をどのように変えるかが明確にされていない点。
D残酷な内容にもなりかねない点。
E言葉の持つ力について生徒に実感として理解させていない点。
F分類で、現実的や空想的という観点もあるのにそれに触れていない点。
G生徒がどのように変化したかがはっきりと残されていないため、効果について評価できない点。
H目標と結果(成果)とがはっきり表れされていない点。
これらの問題を克服しないと、この課題により授業方法も単なるスタンドプレーとして終わってしまう。まだまだ課題の多い実践であった。

七、参考

 第一時の解答の参考にもなるので、分類で例を挙げていたE子のを紹介する。
「象に手を加えて入れる方法」
・象を燃やして灰にする(ハムにする)。
・象を切って一部分だけ入れる。
・スモールライトで象を小さくする。
・象を氷で冷やす。
・象を細かくする(ミンチにする)。
・品種改良して「ミニチュア象」を作る。
・品種改良して「個体にも液体にも気体にもなる象」を作る。
・水分を乾燥させてから入れる。
・象を溶かす。
・象にダイエットしてもらう。
・象の中身をぬいて皮だけ丸める。
・遺伝子コントロールをする。
・象を柔軟な体にする。
・小さくなる薬を飲ませる。
・自分の下半身を飲み込ませる。
・象を骨だけ入れる。
・受精卵のうちから中で育てる。
・象を圧縮する。
・事故のショックを与える。
・象に恥をかかせて小さくする。
・セクシーな写真、または快楽的なものを感じさせ、ふにゃふにゃにする。
・象をうすっぺらくする。
「冷蔵庫を何とかする方法」
・冷蔵庫の背中をとって枠だけにする。
・ビッグライトで大きくする。
・四次元冷蔵庫を作る。
・雪を冷蔵庫と見立てる。
・伸縮自在な冷蔵庫。
・ラーメン屋の巨大冷蔵庫。
・どんなものでも吸い込む冷蔵庫。
・アラジンのランプみたいなのにする。
・漁港の大きな冷蔵庫。
「代用させる方法」
@象を(の)〜で代用
・紙の絵 ・ぬいぐるみ ・受精卵 ・小説、まんが ・胎児 ・折り紙 ・動物クッキー ・写真 ・鏡に写る姿 ・ねんど ・缶ジュース ・ねずみ ・名前を持つ人 ・「象さん」の歌 ・鳴き声のテープ ・想像の中 ・「象」という字 ・模型 ・化石 ・ビデオを流すテレビ ・光の錯覚 ・片足だけ ・牛乳 ・像から「イを取る」と書いた紙をつた像 ・象の細胞を持つねずみ ・絵を中心に描く ・りんご ・あだ名が象の写真 ・食品
A冷蔵庫を(の)〜で代用
・サーカス団 ・布 ・象模様のもの ・おり ・動物園 ・市町村 ・ディズニーランドの空とダンボ ・地球のバンド ・家
「無理矢理入れる方法」
・押し込み。
・冷蔵庫だけを用意してもう入っているとみんなに説明する。
・世界に冷蔵庫と象しなかいないようにして「これに入ってはいけません」と言う。
・小さな生き物に突然変異をおこすまで待つ。
・象を小さな体になる環境で繁殖させ、小さくするまで待つ。
・武器でおどかす。
・恐怖におびえて冷蔵庫に逃げ込ませる。
・冷蔵庫を良い環境にして自分から入らせる。
・人事を尽くして奇跡を待つ。
・サーカス団に箱のトリックをやってもらう。
・母さん象から子象に説得してもらう。
・小さいころから入るようにしつける。

以上

早稲田大学国語教育学会「早稲田大学国語教育研究」第19集(1999年3月刊行) 「実践報告」


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